キリスト教が渡ってきた方角へと
沈む夕日と、
海の向こうに望む自由。
日本を代表する芥川賞作家、遠藤周作(1923-96)。
日本人とキリスト教をテーマに、
多くの著作を残した作家の精神に触れ、
西の海に面した高台に立つ文学館から
美しい夕日を眺めます。
知識 キリスト教に対する自身の葛藤
キリシタンの弾圧が厳しかった江戸時代初頭の長崎を舞台に描かれた長編小説「沈黙」。 2016年にマーティン・スコセッシ監督により映画化もされ、発行部数300万部を超える遠藤周作の代表作は、12歳で洗礼を受け、日本人とキリスト教とのあいだにある距離感に悩んだ自身の経験から、日本におけるキリスト教というテーマを追求した多くの著作の一つです。
執筆していた書斎の再現や手書きの草稿など、遠藤周作にまつわる品々約3万点を収蔵。文学館には、潜伏キリシタンが逃れた五島列島をガラス越しに望める思索空間アンシャンテが併設されています。夕暮れ時に訪れれば、日本に布教するために渡ってきた宣教師たちの故郷、ポルトガルの方角に見事な夕日が沈みます。
文学という形で外海における歴史を振り返ることで、この地の歴史や文化を守ることの大切さを再認識し、長崎の旅を記憶に留めます。
県外の出身だが、初めてここを訪れた時「歴史的集落や建物、生活、宗教の関わりが今も残る場所だからこその文学館」と感じたそう。遠藤周作の人間の弱さに寄り添う姿勢と眼差しを感じてください。
「あの黒い足指の痕を残した人びとはどういう人だったのか」41歳の時、長崎を訪れた遠藤周作は1枚の銅板の踏み絵と出会い、木枠の部分に残る足指の痕を見て考えました。禁教時代に自分が生きていたら踏んだのか、踏まなかったのか、どちらの人間なのか。それが「沈黙」の構想へと膨らんでいきました。
その後も取材のために度々長崎各地を訪れ、「沈黙」を書き上げた遠藤周作。彼は外海を「神様が僕のためにとっておいてくれた場所」と評し、全国の候補地の中から文学や人間を語るのにふさわしい場所として文学館の建設が決まりました。1996年、73歳で亡くなった際、棺に収められた2冊の著作のうち1冊は「沈黙」でした。
遠藤周作文学館&思索空間アンシャンテ
住所:長崎県長崎市東出津町77番地
開館時間:9:00-17:00(休館日12月29日-1月3日)
駐車場:あり